2009年02月28日
ある日の午後
「東京はこの冬一番の寒さです。」
朝のテレビでは、ニュースキャスターが笑顔でそう言っていた。
午前中、シンクタンクでの打ち合わせを終え、外を見ると雪が降っている。
「青森から雪を持ってきたんじゃないですか。」
背中に声を聞きながら、その場を後にした。
目的の大学に到着すると、降る雪が珍しいのか、東南アジアからの留学生達がしきりに記念撮影をしている。
教授への説明も何とか終わり、早めに帰途につくことにした。
駅構内には複数の警察官の姿がある。
土産を買っていると、警察官が柱の影で男のバッグを開け、中身を確認しているのが見えた。
最近のテロ対策の一環だろうか。
予定の列車にはまだ時間があるので、椅子に座り本を読んで時間をつぶす。
ふと、誰かが大声で叫んでいるのに気づいた。
東京で叫び声を聞くのは、さほど珍しいことではない。
だが、何だか様子がおかしい。
顔を上げると、数メートル前に5~6人の警察官の姿があった。
冷たい床には誰かが組み伏せられているようだ。
「大人しくしろっ!」更に何人かの警察官が走ってくる。
行き交う人々も皆歩みを止め、不安そうに事の成り行きを見つめている。
しばらくして、ひきずられるように立たされたのは長髪の若い男だった。
何人かの警察官が男を後ろ手にねじ上げ、一団となってこちらに向かって歩いて来る。
男が被っていたのか白い帽子と、黒い財布のようなものを別の警察官が持っているのが見えた。
男は特に抵抗することもなく、ゆっくりと連行されていく。
ただ、私の前を通る時、一瞬目があったような気がした。
その時、何とも言えない嫌な感覚におそわれた。
一団が去った後、駅はまたいつもの喧騒を取り戻していた。
そして、あれほど目に付いた警察官の姿も、なぜかまったく見えなくなっていた。